千本鳥居の時の無名、思ったよりおっぱいでかくて毎回二度見する
2063年。スロットは11号機時代へと突入した。
度重なる規制により出玉制限は1000枚リミットになり、有利区間は400Gまでとされ、大人気のバジリスクシリーズは今夏に絆6が出るまでとなった。
もはや4号機、5号機はおろか6.5号機ですら恋しくなる始末となり、かつての鉄火場と化したホールは閑古鳥の泣く現状である。
人気ライター達も続々と引退を表明した。
スロパチス○ーションのいそ○るは成り上がりすぎて長者番付に名を連ねる程の富豪となり、1G○MEのてつはすっぴんになり、ス○ープTVの寺○一択は「番長を抱いて眠る」と言葉を残し大都技研本社と共に爆発した。
そんな中今もホールで躍動し続ける者がいた。カバネリおじさんである。
ホールにいる若者を捕まえては聞いてもいないカバネリのレバーの叩きどころや脳汁演出、スペックに至るまでを事細かに説明し、いつも煙たがられていた。
「あのおじいさん、いつも話しかけてくるんですよね」
うざったそうに話すのは20を超えたばかりであると話してくれた青年。でも、と彼は言葉を続けた
「子どもみたいに目を輝かせて話す姿は少し羨ましいっすけどね。俺はカバネリ?があった頃は生まれてもいませんから」
AT消化があるんで戻ります、と青年は少し早足でホールへと消えていった。なるほど、カバネリおじさんはこうして託していたのだ。スロットへの想いを。魅力を。
もっと知りたい。カバネリおじさんの事を。その人となりを。
燻っていた私のライター魂に、一輪の炎が咲いた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
後日、私は東京の一等地にある大きな一軒家を尋ねた。奥には何やら工事中の建物も見える。
一体どれだけのお金持ちなのだろう…
緊張しながらカチャ、とインターホンを鳴らす。この音はカバネリのAT突入時の音声だろう。私も若い頃に聞き覚えがある。
「いらっしゃい。貴方ですかな、わたしに取材したいと仰っていた方は」
使用人の方に連れていただいた部屋に入ると目を疑うような光景が広がっていた。
身体何本も繋がれたチューブ、点滴。更にはかかりつけの医師も同席していた。
「こんな姿で申し訳ない」
と痛々しい姿を見て思わず顔を背けた私に彼は謝罪の言葉をかけた。
とんでもない、と返し一度冷静になり部屋を見渡す。ざっと数えただけでもカバネリの筐体が20台は置いてある。
すごい数ですね、と小学生の感想のような事を口に出してしまった。何年ライターをやっているんだ。私は自分を恥じた。
「本当は、もう少しあったんですが。去年の震災でダメになってしまって」
去年の首都直下地震。震度6を超える大型の地震は、各地に沢山の被害をもたらした。都心部では今も尚その爪痕が痛ましく残っている。
奥に何か工事中の建物があったが…あれは工事しているのではなく震災の影響を受け、崩れてしまったものだったのか。
さて、そろそろ本題に入ろう。何故カバネリをここまで愛してやまないのか、この豪邸はどのような経緯で建てられたのか、etc…聞きたいことは山ほどあるのだから。
それから彼は胸中をゆっくりと語ってくれた。
「実はこの豪邸はカバネリの勝ち金だけで建てたものなんです」
「わたしをここまで大金持ちにしてくれた台への感謝、ですかね。オークションで売っているのを見かけるとついつい買ってしまうんです」
「今のスロット業界は正直芳しくないですね。かつてのような熱はどこにも感じられない」
「カバネリはわたしにとって孫のようなものです。孫の自慢をしたくなるのは爺さんにとって普遍的なものでしょう?」
インタビューをしているうちにここまで夢中になれるものがあっただろうか、と自身に問いかけるが、答えは言わずとも分かってしまった。
それからは一緒にカバネリを並び打ちし、彼のカバネリに対する雑学なんかを交えてインタビューを続けた。時折、六根清浄!とはしゃぐ彼は何故だかキラキラ輝いて見えた。
そうしていたのもつかの間。突然ゴホ、と彼が咳き込む。そこにはまるで無名チャンス目のように赤い血が広がっていた。
「はは、無茶をしてしまいましたな。これでも昔はお昼も食べず1万ゲーム回すくらいの元気はあったのですが」
自嘲気味に話す彼。私は突然の出来事に気持ちの整理が出来ないでいた。
「もうすぐにでも死ぬってなんとなく分かるんです。打ち込んできたカバネリの設定のように」
まだまだ話したいことは沢山あったはずなのに。言葉が口から出てくれない。
これから死にゆくものに何を話せるだろう。何を伝えられるだろう。途端に涙が溢れてきた。
私は涙をぐっと堪え下手くそな精一杯の笑顔を作ってみせた。
「必ず伝えます。貴方の想いを、スロットの魅力を、これから先ずっと」
人生ではじめて心から本音が言えた気がした。
彼は一瞬目を丸くさせ、程なくしていつもの暖かい笑顔を見せた。
「それでは老いぼれの話に、もう少しだけ付き合ってはいただけませんか。」
そう口にした彼の目は子どものように輝いていた。